構成概念について自分が考えること(2):構成概念のコードと解釈者
前回まで
- 構成概念を記号として捉えてみる
- パースの記号論を援用して,構成概念の解釈を記号過程と捉える
- 記号過程の中で,それぞれが別個の記号でもある心,行動,測定という要素を複雑に媒介していくことで構成概念に解釈が与えられる
- この観点の下で,構成概念の解釈はおよそ7種類に分類される(という試案)
今回
概要
- 記号としての構成概念について考えるためにコードという見方を取り入れる
- 記号としての構成概念の解釈者の存在を考える
3. 構成概念のコードと解釈者
3.1 解釈の不一致
まずは,以下のことに着目してみる。
- 心理測定の議論では,少なくとも,測定手続きを介さない構成概念のあり方について議論されることはない
- いわゆる行動主義による分野では,少なくとも,行動を介さない構成概念のあり方について議論されることはない
- いわゆる心理主義による分野では,少なくとも,心を介さない構成概念のあり方について議論されることはない
それぞれの態度についての議論は置いておくにしても,記号としての構成概念にはさまざまな解釈が与えられ,分野やひとによって異なるだろう,ということだ。
構成概念の解釈が研究者間で一貫しない,というのは,今に限ったことではなく,昔かからいつでも議論されてきたことだ。とてもおおげさにいえば,共約不可能だとか,パラダイムの違いとかそんな感じになるし,おおげさにいわなくても,構成概念の氾濫とか術語の氾濫とかそんな感じ。
3.2 コミュニケーション過程?
ここでちょっと違う枠組みだけど,コミュニケーション過程というのを考えてみる。おおざっぱにシャノンの情報理論によれば…
- 情報の送り手と受け手がある(それぞれをチャンネルという)
- 送り手が情報を受け手に伝えたいとき,情報を信号に加工する(これをコード化という)
- 信号は,情報それ自体ではない
- 受け手は,もとの情報が復元するように受け取った信号を加工する(これを解読という)
- この過程をコミュニケーション過程という
- 送り手がもっていた情報と受け手がもっていた情報が同じであれば,コミュニケーションが成立したという
- コミュニケーションが成立されるためには,コード化と解読が成立するような,送り手と受け手に共通するコードがなければならない
- かなりおおざっぱにいってしまえば,ソシュールにおける記号論では,記号表記が信号,記号内容が情報に相当する。ここでのコードは,ソシュールのラングに相当する。
- かなりおおざっぱにいってしまえば,パースにおける記号論では,記号が信号,対象が情報で,コード,コード化,解読などは全部解釈項に入る
- もちろん,このコードという見方にも批判はある
研究者同士が議論するとき,2つのチャンネルがあるとして,ある構成概念「動機づけ」に関する記号過程,たとえば心,行動,測定手続きの複雑な関係は,一種の情報である。送り手がもつ情報は,言語的な表記,または音声としての動機づけという信号(視覚的または聴覚的な)にコード化されて,受け手が信号を得る。受け手は信号を解読し,送り手がもっていた情報を復元すると,コミュニケーション成立。めでたしめでたし。
このときのコードは,そりゃおおざっぱにいえば,辞書的な意味での術語の定義みたいなものなのだろうけど(最初の解釈),上記の7パターンに分類されるような記号としての構成概念について,いつも,めでたくコミュニケーション成立するわけではない。
心理学やそれに類する分野(外国語教育もそれに含まれるとして)で,研究者同士が隣り合い,そしてなにかの構成概念について誰かが口にしたなら,かならずこのような会話がなされる。いずれも,今年のうちに居酒屋で聞いた実例。
- 「で,そのバーンアウトっていうのはそもそも存在するの?」(心,その実在に関する質問)
- 「動機づけが高いと,具体的にこれくらい勉強します,こんな感じで勉強をしますっていわれなきゃなんもわかんないよ」(行動の傾向性に関するコメント)
- 「知りたいのは要はその測り方なのよ。もしも測り方が定まらないなら,そんなものは怪しい」(測定手続きに関するコメント)
ある構成概念について誰かが論じたとき,それに対する素朴なコメントがこの三種に分類されると気づいたのが,そもそもこの考え方の着想の由来。
聞き返すというのは,おそらく受け手がもっている記号としての構成概念の要素のどれか(心,行動,測定)を満たしておらず,その要素について補完しようとしているからだと思う。コミュニケーションは成立されなければならない。
ひとによって異なる心,行動,測定の組み合わせによる7種は,おおざっぱにコードといわれるもののようなもんだ。つまり,構成概念にはコードがある。
概念が独り歩きするというようなよく聞く研究上のことばも,このコードが共有されていない度合いのことじゃないかな。
3.3 記号の解釈者
記号としての構成概念には,かならず解釈者(聞き手)が必要だってこと。たとえば,ある研究者が心,行動,そして測定手続きを介して構成概念を表すとき,その解釈者が心を介さない構成概念のコードをもっていたら,心の側面は解読されない。同じように行動を介さないのなら,行動の側面は無意味になる。そしてもっとも多いのが測定手続きが解読されないことだろう。
逆もあり得る。解釈者が心,行動,測定手続きの3セットによって解読するとき,この3つが得られなければ不完全であると捉えて聞き返すかもしれないし,補完するかもしれない。
今日はここまで。