草薙の研究ログ

英語教育関係。でも最近は統計(特にR)ネタが中心。

構成概念について自分が考えること(1):記号としての構成概念

概要

  • 構成概念を記号として捉えてみる
  • パースの記号論を援用して,構成概念の解釈を記号過程と捉える
  • 記号過程の中で,それぞれが別個の記号でもある心,行動,測定という要素を複雑に媒介していくことで構成概念に解釈が与えられる
  • この観点の下で,構成概念の解釈はおよそ7種類に分類される(という試案)

背景

構成概念(construct)とはなにか,というものについて考えない日はない。というか,より具体的に,「構成概念に関する考え方が,著しくひとによって異なること」に対して興味がある。思考や勉強を垂れ流しのままにしていてももったいないので,勉強したり思ったりしたことをメモしていくことにする。

記号論的に構成概念を見てみる

1. もっとも広い意味での構成概念の見方

  • 構成概念ってぶっちゃけ記号である

構成概念について思索を始めるときは,常にここからスタートすることにした。ここが絶対的なスタート地点であることはもう疑わない。

  • 記号は,なにかの代わりをするあらゆるもの
1.1 ソシュール記号論

ここではあまり使わないけど,構成概念を語るテキスト(論文や本)の中で,構造主義的な見方をするのに役立つと思って。

1.2 パースの記号論
  • 記号,対象,解釈項の三項
  • それぞれ一次性,二次性,三次性に対応する
  • 解釈項はまた記号になり,別の記号との関係が発生し…という記号過程

構成概念を記号過程という観点から捉えるというアイデアを思索の中心にする。

  • 記号と対象の関係性には,類似性,因果性,規約性がある
  • それぞれ,アイコン,インデックス,シンボルと対応する

特に術語としての特徴に注目を当てるとき,構成概念は,他のあらゆる言語表現と同じで,基本的に恣意的で,規約的で,そして慣習的なのでシンボルでもある。りんごという発音と果物としてのりんごの関係は,なんら必然的な関係はなく,そう決められただけのことであって,知性という発音とその対象の関係もそうに違いない。

これを,個人的に最初の解釈ということにした。つまり,なんかをとにかくそう呼ぶことにしている,というお約束。これももう疑わなくていいと思っている。

しかしこれで終わりでない。記号過程は続いていく。

1.3 それ以降の解釈に関係するだろうこと

記号過程の中で,具体的に以下の3つの要素(これらもある意味記号である)の組み合わせを媒介することによって,構成概念にさまざまな解釈が与えられているとひとまず考える。

  • 物理的外延をもたない実体=心
  • 行動
  • 測定手続き

これらを最低でもひとつ含む組み合わせは以下の通りで7つ。

 

  行動 測定手続き
1    
2  
3  
4
5    
6  
7    

 

こんな感じ。なので,とりあえずこの(未熟な)考えの上で,記号としての構成概念は7種類に分ける,としよう。

  • ここでのは,デカルト的な意味で,まったく物理的外延をもたないもの。物理的外延をもたないので,ときに時間と独立したり,空間と独立した働きをしたりする。しばしば私は,ライルのことばを借りてゴーストと呼ぶ。
  • ここでの行動は,人の一般的な行動のこと。行動はもちろん記号でもあるし,モリスのように,記号というものの基礎づけに行動を置く場合もある。しばしば私は,文脈によって観測と行動を同じ意味でつかう。
  • ここでの測定手続きは,質問紙をやったり,それになんらかの測定モデルを適用したりすること全体。測定はかならず行動を伴うが,ここでは奇妙なことに,測定手続きに含まれる行動のみに限定する。そしておおざっぱにも,データやモデルも全部含めてしまう。

ここが自分の考えに独自性があるところだと考えているけど,心理統計やテスティングでは,当然ながら,この測定手続きを考慮しない議論は存在しなかった。ほとんどの場合,構成概念は,観測変数と潜在変数の論理的ないし数理的関係とその実装を中心に語られてきた。しかし,応用分野になればなるほど,自分にとっても盲点だったが,測定手続きと完全に独立した構成概念はあり得るし,いわゆる心の実在や因果関係に関する認識は変わってきて自然。つまり,構成概念という記号にも,コードというようなものがあるだろう,ということ。

2. 7種類の構成概念の解釈

2.1 心のみ
  • 行動と測定手続きをまったく介せずに心を直接的に参照する

記号は,なにも物理的外延をもたないものもその対象にすることができる。ユニコーンのように。

これを悪しき二元論だとか,安易な実在論だ,と決めつけるのは慎重であるべき。経験とまったく独立した記号は存在しない。その経験というのが,おそらくひとの話を聞いたり,本や論文で読んだり,そして自分の主観であったりということだ。これが成立するかはわからないが(厳密な意味ではしないと思うが),たとえば,「動機づけ」は,観察されうる行動の頻度や持続長などと関係なしに,そして質問項目や因子モデルなどとも独立した意味をもつ。

それが関係する行動も測り方も知らないけど,このことばを使う,みたいな場合。これを心やゴーストと呼ぶかもまた難しいけど。

2.2 心と行動
  • 測定手続きを介しない,心と行動の関係

この態度は,一般的にアブダクションと呼ばれる論理にもとづいていて,場合によってはそれが間違いであるとか,循環に陥るという批判を受ける。

アブダクションは,論理A→Bと結論Bから,前提Aを導く。なにかがなにかを動かすという論理があって,なにかが動いているのだから,それを動かしているのもあるはずだ,というような考え方。ペラペラとよく英語をしゃべるのだから,またはしゃべらない人がいるのだから,その原因となる熟達度というのがあるはずだ,というに考える。

関係というのも一筋縄にいかない。類似関係と因果関係のふたつはあると思う。いわゆる,「行動は心を映し出す鏡」,つまり行動は心と並行しているであるとか,少なくとも性質的によく似ている,というようなものだ。この場合,記号としての構成概念はアイコンに分類されるはず。

もう一方,因果関係は,いわゆる機械の中の幽霊だ。心と身体が別々にあって,心は物理的ではないのに,なぜか物理的な身体に影響を及ぼすというあの超自然的な考え方。

機械の中の幽霊批判は人間の尊厳を傷つけるという方がいるので,この話をするときはできるだけ穏健なヴァージョンを用意してそれを使う。それはドラクエ的世界観だ。ドラクエではゲーム中,メニュー画面を開くと,キャラクターのパラメータが見えるんだ。ちからが8で,かしこさが7というような。で,実際に,おそらくこのドラクエの世界の中からは直接的にアクセスできないこのパラメータが,ドラクエの世界の中におけるできごとの本当の原因となっている。しかも,超簡単な数式で。たとえば,スライムにこのキャラが攻撃をしかけるとき(これは行動であり記号でもある),スライムがくらうダメージは,ダメージ = キャラのちから + 武器の性能 - スライムのぼうぎょ,みたいになっている。熟達度が英語使用の原因だというのとおなじで,ちからはダメージの原因だ。

ここでは,あくまでも測定手続きが関係ないことに注意。つまり,ある意味運命などもそうだ。運命という目には見えない,おそらく物理的外延をもたないものが,行動を支配していて,そして運命を測定しようとはしない。

2.3 心と測定手続き
  • 行動を介しない,心と測定手続きの関係

この態度が成立するかも難しいのだけど,こう理解したらよいかも。たとえば,まったく将来の行動を予測しない心理測定。動機づけは,この質問紙とこの因子モデルによって測定できる(ここでは大雑把な意味)のだけど,動機づけは,日常的な,または測定以降の行動の頻度や持続長などとは関係ない。

つまり,測定手続きに関わる行動のみの原因となっている。…そんなものやっぱないかなぁ。この組み合わせを廃止しようかな。

ただ,いいたいこととしては,なんら実際の行動などを顧みない,その関係性を考慮しないクソみたいな操作主義に相当するイメージ。

2.4 心と行動と測定手続き
  • 心,行動,測定手続きの三者関係

 

おそらく,これがもっとも多数のひとにとっての構成概念。心,行動,測定手続きは互いに関連付けられていて,構成概念という記号が示す対象は,これらの複雑な関係だということ。

典型的な場合,こんな関係だ。

  • 熟達度はある種の行動の原因となっている(熟達度が高ければペラペラ)
  • 熟達度は測定手続きに含まれる行動の原因にもなっている(熟達度が高ければテストのスコアが高い)
  • なので,(アブダクション的に)テストのスコアが高いのならば熟達度が高いと見積もるのがもっともらしい(合計得点をもとめ,個人に割り当てる)
  • テストのスコアが高いひとは熟達度が高いとみなせる

このような仮定や推論が構成概念という記号をなす,と考える。

この態度やこれとは異なる関係性についてはあとで詳しく考える。記号としては,インデックス的な性質が強い。

ドラクエ的世界観だとこんなかんじだ。ちから(心)は,ダメージの原因になっているのだから,ぼうぎょがおなじスライムに,おなじ武器を装備させてダメージを測ったら,ちからが間接的にわかるだろう。つまり,メニュー画面を開かなくても,ドラクエの中からちからがわかるだろう,と。

2.5 行動のみ
  • 心と測定手続きを介さない行動それ自身

ここからは心を介さない構成概念。

心を介さない構成概念の見方も非常に根強い。古くいえば,エピクロスとかルクレティウスとか…20世紀に飛んでライルとか,論理実証主義のカルナップ,記号論ではモリス,もちろんいうまでもなくスキナーとか,最近だとラクリンとか,面々たる系譜が繰り返し繰り返しいってるような態度。「心は行動の原因でもないし,けっして説明にもならない」という。

術語としては行動の傾向性などともいうそうだ。ここでの態度は,熟達度は,(将来的に)ペラペラ喋ったり,英字新聞を読めたりするような行動のカテゴリーそれ自体である,といった感じ。

ただ,具体的な測定手続きは考えない。

2.6 行動と測定手続き
心を介さない,行動と測定手続きの関係

もちろん,場合やものによるのだけど,私が一番構成概念として解釈するのはこれのこと。行動と測定手続きの関係は,全体部分関係にある。心理統計だと,潜在変数の非因果的解釈などともいわれるよう。たとえば詳しくは後述するけど,ある行動のカテゴリーからその一部分に当たる行動をサンプリングして測定手続きに使っていると考えわけ。因果関係はここにない。

つまり,行動の傾向性を表す指標を取っていること。もちろん,記号としてインデックス的だ。

2.7 測定手続きのみ
  • 心と行動を介さない,測定手続き

この態度は奇妙なことに成立しそうだ。たとえば,熟達度とはTOEICのスコアそれ自体を,ほかの心や行動とは何の関係もなく示しているというもの。心なしで,そして測定が行動の予測力をもたない,といったパターン。

2.8 まとめ

というわけで,記号としての構成概念に着目して,構成概念は7種類に分けられるんじゃないかと妄想した,という記事でした。まだまだ続くけど今日はここまで。