草薙の研究ログ

英語の先生をやってます。

ひとに統計相談をするための8つの基本的なTips

その1:データや資料を必ず用意する

統計を得意とするひとであっても,実際のデータやそれに関する資料などが,手元に全くない状態において,(しばしば不正確で非専門的ないい方による)文字や音声だけによる情報で正確に相談の意図を把握することは簡単ではないと思う。データや関連する資料をメールで事前に送ったり,面会する際は印刷して参照できるようにするほうが効率的だ。統計に関する参考書や自分の研究に関する先行研究もよい資料となる。

その2:できればデータを取得した後でなくて,事前に相談をする

ほとんどの場合がそうだが,有意差がでなかった,思うような結果にならなかった,ということについて「統計分析にその原因がある」と一意的にみなし,本来あった研究仮説と整合性がなくなるようなレベルで,モデルや分析法を変えたりするように統計相談をするひとがいる。これはほとんどの場合,被相談者にとって心持ちのよいものではない。実験・調査の事前段階でその計画について相談するほうが大抵は優れた研究につながる。特に研究仮説の書き直し(HARKing)につながるとみて,場合によっては相談自体をお断りされる方もいると聞いた。

その3:質問をできるだけ具体的に細かく分ける

たいていのことはそうなのだが,「大丈夫か」とか「問題ないか」とか「適切か」といった抽象的で曖昧な聞き方をするとあまりよい回答は得られない。たとえば,この計画は大丈夫か?というよりは,「標本サイズ決定の仕方を知りたい」とか「効果量はどの指標を使うべきか?」といった具体的な質問をリストアップするほうがよい。もっとも非効率的なのは「どうしたらいいですか?」だ。これはほとんどまともな返答をもらえない。相談を受ける方にとって,「こうするんだけど適切か」と聞かれたら「厳密には文句がない統計など絶対にない」というだろうし,その程度は非常に曖昧なものになってしまう。

その4:対価に当たる部分についてどのように考えるかを知っておく

相談を受ける側が対価を求めるわけではなくても,その行動にはそれなりにコストが発生しているわけで,それをどうするかは人による。まったく贈答品やお土産の類を受け取らない,論文等の謝辞などもすべて辞退するというタイプのひともいれば,遠慮なく受け取るひともいるし,ある程度以上であれば謝辞や著者権が正当だと思う方もいる。非常に難しい問題なので,事前に対価について相談を受けるひととスッキリしておく方がよい。たとえば,私が相談を受けるときは,対価にあたるものはできるだけ受け取らないようにしているし,謝辞なども辞退する方針でいる。高級なお菓子とかが食べたいからやっているわけではないし,謝辞などに勝手に書かれるのは非常に困る。「自分の勉強のためになりますので…」といって対価を拒むひとが相対的に多いと思う。しかし,だからといっていつでも無対価で頼むとひとによっては失礼になるかもしれない。

その5:自分の理解を超える分析を提案されたらそれを伝える

ときに相談をすると,「そういう問題のときは,こういう新しい分析がありますよ」という提案がある場合がある。そういうとき,その提案された手法を自分がしっかりと理解し,ある程度は著者として責任を持てるようにしなければならない。たとえば査読コメントでその分析について詳しく書くようにいわれたときに,書けないというのではよくない。相談を受けるほうからしてみれば,相談をする方が適切に理解しているか,または今後理解するかを見分けるのが難しいので,自分から「それはできそうにありません」としっかりと伝えるべきだ。まったく責任を自分で持てない場合,著者に入れるというのもひとつの考え方だと思う。

その6:エディター,査読者,指導教官などとの争いに巻き込まないようにする

これらのひとと,相談を受けるひとの方針が対立したとき,普通は相談を受けるひとはなんの責任も負うことができない。たとえば,ある分析をして,エディターがそれではだめだといったけど,「これは問題ないですよね?!」みたいにひとに相談をするのはよくない。けっして代理の喧嘩を頼んではいけない。特に学位論文に関わる際には,仮に指導教官よりも統計面に強いひとに相談したとしても,それが学位論文を審査する人にとって好ましい分析であるかはわからない。

その7:最終的な主張を伝えない

「この研究では,こういうことを主張するために…」というようなことを明確に伝えると,結論ありきの分析につながってしまいかねない。相談を受けるひとが忖度して,かなりQRPに近いことを提案してくるかもしれない。よくある話だけど,ある程度,統計をするひとにとって,有意差を無理矢理つくることは難しくない。非常に難しい問題だが,できれば統計相談の際も,結論を先取りするような態度を示していないか,慎重にありたいものだ。

その8:面会よりもメールにする

面会する場合よりも,文面の方が一般的に質の高いやりとりができる。面会時間よりもはるかに短いあいだで,はるかに質の高い返答をメールで送ることができるかもしれない。たいていは相談を受ける方も,書籍やネットなどでなにかを調べたり,なにかで実際に計算したりするので,ただ面と向かってしゃべっている面会よりは,そういった作業ができるようなメールのほうがよい。多分,メールでは失礼だ,とかお菓子渡したい,というように考えられる方が多いと思うが,そういうのはまったく別の機会でよい。行動の強化を図って即時に強化子たるお菓子を与えなければならないとか,そういうふうに考えない。