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草薙の研究ログ

英語教育関係。でも最近は統計(特にR)ネタが中心。

学会でスライドをカメラでパシャパシャ問題

雑感

この前,猛暑の東京で学会があった。盛会でなによりでした。

ところで,この学会を通じて,参加者の先生方にはあることがお心に残られたと思う。

講演,シンポジウム,発表中にスライドを逐一撮影することはどうなのか,ということ。

 

確かにすごい頻度で目についたことだった。基調講演ではスライドが一枚変わるたびに一斉にパシャパシャ,シンポジウムでも,発表中でも。

私は公募シンポジウムと口頭発表をしたのだけど,私の登壇中にもパシャパシャがたまに聞こえた。口頭発表の方は,なんと動画を撮影なさっていた先生がいらっしゃったとのこと。確かに思い出せば,そんな先生もいらっしゃったような…。海外から呼んだような偉い先生じゃあるまいし,一声かけてくだされば,なにかご不明な点が残ったのであればマンツーマンでご説明さしあげるのに…。(私は一向に構いませんが)

いいこと/悪いことかは,それは学会の中で取り決めを持てばいいのだけど,なぜこういうようなことが起こったのだろう?

 

多分,第一の要因は,学会員のリテラシーが低い(要はググればわかるのに,とか)とかそういうことではなくて,近年の発表形態の変化だろう。

外国語教育では,といっても学会ごとに多少のスタイルは違うけれども,近年,印刷物の発表資料は用意せず,パワーポイントスライドのみで発表する件数が増えてきている(主に若手・中堅を中心として)。私は知らないのだけど,国際学会ではこういうスタイルが主流なのだそうだ。

なので,結局は発表に参加しても,手元にはなにも残らないため,手元に自分で用意したノートなどに書き溜めることになる。

プレゼンテーションにおけるスライドの利用法もだんだん変化を遂げ,昔とくらべて一枚にのせる情報量が圧倒的に少なくなってきている(そしてスライドの枚数がインフレ的に多くなってきており,必然的に一スライドあたりの投影時間も少なくなってきている)。これでは古典的な「ノートに書き写し」というような記録法は間に合わない

一方,モバイル・デバイスの普及はめまぐるしく,タブレットスマートフォンなどの保存領域も大容量化し,稼働時間も長くなってきている。このような状況で,カメラ,というか画像媒体での保存もどんどんしやすい状況になっている。画像ファイルの整理も格段にやりやすくなってきている。

こういう状況は,参加者間で比較的一律であるため,だれかひとりがそのような行動をして,それが目に付けば,指数的にそのような行動が拡散する。この学会はテクノロジーに強い先生が多いので,それも要因のひとつになるだろう。

 

なので,まとめると,主要因は「配布資料を配らないような発表形態になってきていること」こそが原因いうのが私の読み。

 

実際,何件か回ってみて,発表資料を配っている発表者の部屋ではパシャパシャがならないようだった。私のような10ページを越す冊子を配る発表者では,パシャパシャはゼロに近かった。ただし,動画を撮影なさる強者先生もいらっしゃったのはどうしたものか…。

 

私も,ちょっと前まで若さゆえで考えが足りない時期があったので,パワーポイントの投影資料だけを用意して,ネットで公開でもしていたらいいのでは,という考えをもって,そのような失礼な発表形態を何回もしてしまったこともある。

でも,これはやはりよくないと思う。講演やワークショップといった一般的で軽い話ならまだしも(むしろ長いため,スライド程度の情報量で良い場合もある),実際の特に実証的な口頭発表では,論文原稿か,それに近い状態までまとめた冊子(10ページ前後)の資料を渡すべきだと思う。

ネットで公開,というのは当然の動きだとも思うが,どちらかというとネットで公開すべきはそういったコミュニケーションが効かない生データや解析コードだと思う。冊子での生データ,解析コード,実験材料などをセットでネット上において公開しておき,発表資料を印刷して配るのがいいのじゃないだろうか。

私はそうするようにした。

 

協同学習・動機づけプロジェクト - 草薙邦広のページ

 

それに,スライドや発表資料をネットで公開するだけ,というのは手間だ。わざわざ発表に来てくださった方に,手間を押し付けているような気もする。また,実感としても,冊子型の発表資料をお渡しすると,質疑応答の質が目に見えて上がるような気がする。間違いなく誤解に基づく余計な質問はなくなる。

こういうように私が冊子型の発表資料を推すと,印刷のコストとか,資料を持ち運ぶのが重い,とおっしゃる方もいる。

しかし,たとえば(今回の私の発表資料の印刷費では)裏表12ページで60部でも7,200円(実際そうだった),どんなに頑張っても10,000円程度。学会後の二次会,三次会に10,000円以上サラッとお払いになる方がこの程度の経費をどう考えてらっしゃるかは私にわからない。重さはA4だと計算上,1.440グラム。ノートPCひとつくらいの重さだ。

 

…まあ,時代が変われば発表形態も変わるし,その間には間らしい問題もあって,という話。結局はどのようなコミュニケーションのあり方が学会にふさわしいか,を考えることが重要だと思う。パシャパシャはその表面的なことに過ぎない。多分。